経営に終わりはない

経営に終わりはない (文春文庫)

経営に終わりはない (文春文庫)

ホンダの黎明期から自身の引退までの間を特徴的なエピソードを中心に語った本。
分量としては、2時間程度で読める。
当人の言葉どおり、今日のビジネス書で語られるようなフレームワークや体系だった記述は全くといっていないのだが、一方で現在経営管理のエッセンスとして語られるようなことが随所に出てくる。
また、本田氏の「本田宗一郎夢を力に―私の履歴書 」などと一緒に読めば、両輪として活躍してきた2人の軌跡がよくわかる。




成功だけでなく失敗も多かったというのが分かります。
ホンダの成長と共に筆者の指導力も高くなっていたように感じました。
今のベンチャー企業にはない経営手法が書かれているように思えました。


しかし、そのHONDAが現在の地位を築けたのも、名参謀として活躍した藤沢武夫さんの存在があったからです。
本田宗一郎の夢を実現させるためだけでなく、彼の知恵が尽きてもHONDAが成長できるように10年、20年先を見据えた長期的な組織作りを行ってきた経営や、当時からエキスパート型経営を模索するだけでなく、鍋底不況時に大規模設備投資を行うなど、常識にとらわれない経営からは、経営者としての非凡の才能を感じます。
最近では経営のフレームワークが存在しますが、フレームワークがほとんどない時代に、著者が、悩み、悩み抜いて、考え、考え抜いて、実行してきた経営者から発せられる言葉の数々は、単なる自伝というよりも、それだけに重みと深みのある本です。


ところで目立ちたがりの「スター」の著書は枚挙に暇がないが、優れたパートナーによって書かれた本はごく少ない。
これは「パートナー」が裏方であることを考えれば当然のことだが、生涯のパートナーを探し求める指導者候補や、これからパートナーを目指す者達にとって余りにも手がかりが少ないことを意味する。
本書はそうした意味において、傑出した企業参謀の手によって書かれた希有の書である。
ビジネスに興味がない方にも十分読み応えのある良書としてお勧めしたい。